COLUMN
コラム
廃掃法をわかりやすくまとめたり、廃棄物処理業界のDX化の事例をお伝えしています。
廃棄物処理会社様に向けたお役立ちコラムです。
知っておくべき産廃業界の労災の実態
「小さい事故が絶えなくて困っている…大事故は起きていないけど、このままだと心配」
「従業員の危機意識をもっと上げたい」と悩まれている経営者や役員の方は多いのではないでしょうか?
会社の存続と従業員の安全を守るためには、まず、自分たちがいる産廃業界がどれくらい危険なのか?ということを知っておくことが必要不可欠です。
今回は、産廃業界の労災の実態を他業界と比較しながら解説していきます。
産廃業界以外で危険そうな業界、業種
一般的に危険と言われる業種のイメージは製造業や運送業、建設業などではないでしょうか?
例えば、製造業であればモノづくりの現場で溶接機や旋盤などの様々な機械の使用において危険なイメージがあります。運送業であれば、交通事故はもちろん、重い荷物を持つことによる身体的なダメージが想像できますよね。
また、建設業についても、高所作業や重機を使用した仕事が多いため、事故の危険性が高いのではないでしょうか?
では、私達の廃棄物処理業はどうなのでしょうか?労働災害の発生状況を評価する度数率(労働災害の起こりやすさ)を見てみると、度数率6.42と、平均値を大きく上回る数値が出ており、労働災害リスクが高いことが分かります。
危険な業界である建設業と比較しても、約6倍以上と大きく上回っています。
出展:全国産業資源循環連合会「産業廃棄物処理業における労働災害の発生状況」
(https://www.zensanpairen.or.jp/wp/wp-content/themes/sanpai/assets/pdf/disposal/safety_saigaihasei.pdf)
なぜ産廃業界は労働災害が多い?
建設業は一見すると危険な業界のように思われがちですが、実際の建設現場では安全性を高めるための計画的な整備が行われています。例えば、足場や安全ネットの設置など、事前に危険を予測し対策を講じることが可能です。作業環境も管理しやすく、リスクを最小限に抑える工夫がされています。
さらに、作業員が手作業を行う場合でも、図面に従って作業を進めるため、使用する建材の規格が統一されており、形状や重量が予測可能です。定型的な作業も多く、実は労災が起こりにくいといわれています。
一方、私たちの廃棄物処理業では、運搬や処理の過程でその都度形状や重量が異なる廃棄物を取り扱うため、実際に作業に取り掛かるまで、そこに潜む危険性が見えにくいという特徴があります。
例えば、積み込み時に、荷物の落下や、荷崩れが起こり、作業員が怪我をする事故が発生しています。特に、重い物や鋭利な物が落下すると重篤な怪我に繋がります。
また、処理工程では、フォークリフトや重機、機械を使用します。そこで、予期しない他の作業員との接触や衝突、挟まれ事故が発生することもあります。
このような業務の特性や、予測がつかない現場の状況などから、私たちの廃棄物処理業では労災が多いといわれています。安全性を高めるためには、その業界の特性に応じた適切な対策が必要です。
しかし、産廃業界すべての会社で事故が多発しているか?というと、そうではありません。事故を多発してしまう会社には、ある共通点があります。
それは、
・軽微な事故でも共有せず、さらには隠してしまう空気感がある。
・分からないことがあっても上司や先輩に質問せず、知ったかぶりをしたり、疑問をそのまま放置したりする傾向がある。
・必要な情報や知識が適切に伝達されず、ミスや誤解が発生しやすい。
・後輩から先輩に対して、何か言いだしづらい雰囲気がある。
などです。
特にベテラン社員になると、プライドが邪魔をして人に聞くことに抵抗を覚えてしまうものです。「自分だけでなんとかなる」「聞かなくても大丈夫だろう」と、独りよがりの状態に陥ってしまうと、どのような事が起きるでしょうか?
例えば、
・起こした事故に対し適切な振り返りができない。
・一度起こした事故を、他の人が同じように起こす。
など、このような悪循環を生んでしまいます。事故の振り返りや日常の些細な共有が不十分だと同じミスが増え、重大な事故を引き起こす確率を、日々高め続けてしまいます。
事故を激減させている企業の特徴とは?
事故が多い会社の特徴を挙げましたが、根本原因の一つに社内のコミュニケーション不足があると考えられます。特に、事故防止の意識が高い企業では、社員同士のコミュニケーションの量が多いことも一つの特徴です。
コミュニケーションを重視することで事故を激減させた産廃業者の事例をご紹介します。
① 社内SNSを活用したコミュニケーション
社内SNSを活用し、ニュースで取り上げられた事故や自身が体験した運搬や現場作業でのヒヤリハットを投稿し、各メンバーがそれに対する対策や意見をSNS上のコメントで交換しています。これにより、様々なシチュエーションにおいて注意すべき点を考える力が身につき、他者の意見を知る機会も増えるため、危機意識が醸成されます。このような仕組みによって、社員が日々の業務中に感じた危険や改善点を即座に共有できる環境が整えられ、潜在的なリスクを早期に発見し対応する助けとなっています。
② AIドラレコの活用
車両にAIが搭載されたドラレコを活用し、AIが特定した危険運転やその瞬間の映像を、ドライバー自身や管理者が確認するようにしています。ドライバーはこれにより、自分ごととして捉え、安全意識を改善することができます。管理者は、今まで経験や感覚に頼っていた指導から、AIドラレコが判断した危険運転や映像を基に注意やアドバイスができるため、より質の高い教育ができるようになりました。また、安全運転のスコアが見える化されることで、ドライバー同士の良い刺激や話のネタにもなっています。
ドライバーは運転中や作業中に一人でいる時間が多く、出先にいる時間が長いため、どうしても社内のコミュニケーションが少なくなりがちです。しかし、紹介しました①と②の事例のように、日々のコミュニケーションを促進させることや、事故防止のためのシステム活用などにより、適切な情報共有が行われることで、事故の少ない職場環境を実現することが可能です。
まとめ
経営者や役員の方にとっても、社員の安全を守ることは、社員本人のためであることはもちろん、取引先からの信頼など企業経営においても重要な課題の一つであると思います。
廃棄物処理の収集や現場作業は、常に”危険と隣り合わせ”です。従業員に対しての定期的な安全教育や指導、リスクアセスメントなども実施することで、企業リスクを低減することができます。
執筆者
安井 智哉
廃棄物処理会社へ出向し実務経験を積む。現場で得た知識や経験をもとに、お客様の課題に真摯に向き合い最適な提案をおこなうコンサルタントを目指す。
また、静脈産業・廃棄物処理業界の”現場”が抱える課題に着目し、ITシステム等の様々なツールを活用したサービスの開発に努める。