COLUMN
コラム
廃掃法をわかりやすくまとめたり、廃棄物処理業界のDX化の事例をお伝えしています。
廃棄物処理会社様に向けたお役立ちコラムです。
デジタル実地確認に対応しなければいけない?
令和5年3月31日、「デジタル原則を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の適用に係る解釈の明確化等について(通知)」(以下、本通知)が公開されています。
これは、「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、日本の様々な規制について、デジタル化による規制の見直しを求められていることを受けて、「廃棄物処理法」の解釈を一部明確化し、デジタル化を推進しようとするものです。
本通知が実務に及ぼす影響はどのようなものでしょうか?
実地確認のデジタル化?
本通知で言及されているのは、以下の5項目です。簡単な注釈と一緒に、まずは全体像を確認しましょう。
1.排出事業者の処理状況の確認について
→オンライン会議などを活用したデジタル実地確認を認める
2.報告及び立入検査について
→行政の立入検査等も一部オンライン会議などでチェックすることを認める
3.技術管理者及び廃棄物処理責任者の職務の実施について
→管理者を常駐させなくても、遠隔でチェックすることを認める
4.許可の申請等について
→許可申請書を、メール等で提出することを認める
5.書類の閲覧・縦覧などについて
→業許可申請時に一般に縦覧される申請書などをWeb公開すること認める
この中でも今回は実務上の影響が大きい「1.排出事業者の処理状況の確認について」を解説します。少しボリュームがありますが、該当部分を抜粋します。
法第3条第1項及び第12条第7項において、排出事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならず、その産業廃棄物の処理を他人に委託する場合には、処理の状況に関する確認を行い、最終処分が終了するまでの一連の処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならないこととされている。
その処理の状況に関する確認にあたっては、処理を委託した産業廃棄物の保管状況や実際の処理工程等について処理業者とコミュニケーションをとりながら確認を行うことや、公開されている情報について不明な点や疑問点があった場合には処理業者に回答を求めることなど、法に基づき適正な処理がなされているかを実質的に確認することが重要である。
当該確認の方法については、廃棄物の処理が適正に行われていることを実質的に確認することができると認められるのであれば、実地に赴いて確認することに限られず、デジタル技術を活用して確認することも可能である。デジタル技術を活用した確認の方法としては、例えば、電磁的記録による許可内容や帳簿等の情報の確認、オンライン会議システム等を用いた処理施設の稼働状況や周辺環境の確認、情報通信機器を使用して産業廃棄物処理業者への管理体制の聴取を行うことなどが考えられる。
また、排出事業者責任の重要性に対する認識や排出事業者と処理業者との直接の関係性が希薄になることがないと認められる場合であって、上記のとおり廃棄物の適正な処理について実質的な確認が可能である場合は、同一の産業廃棄物処理業者に処理を委託している複数の排出事業者が共同してデジタル技術の活用により廃棄物の処理の状況を確認することは妨げられるものではない。
従来は、排出事業者が委託する廃棄物について、「最終処分終了までの一連の工程が確実に行われるために、処理状況を確認しなければならない」という趣旨の条文は、「処理状況の確認を実地で行う」という解釈があり、定期的な処分場の訪問を行う排出事業者も多く存在しました。
一方で、「実地を訪問する」という方法が明示されていないことや、直接的な罰則がないことから、「実地確認は努力義務」という解釈もあります。
本通知で「実地に赴いて確認することに限られず」「オンライン会議システム等を用いた処理施設の稼働状況や周辺環境の確認」といった記載がある通り、処理状況の確認は必ずしも実地を訪問しなくても良いという解釈が示されたと言えます。
これは、長らく曖昧さが残っていた「処理状況の確認方法」について、明確な解釈が示されました。
目的に応じて、実地と遠隔の使い分けを
では、今後は実地確認を受け入れずに、全てオンラインでの対応でも良いのでしょうか?残念ながら、そこまで単純に考えて良いものでは無いようです。
デジタル技術を活用した遠隔での確認は、状況や目的に応じて使い分ける手段の一つとしては有効ですが、全ての排出事業者が遠隔での確認でOKとはならないのではないでしょうか。
「状況に変化が無いかの定期確認」であれば、遠隔での確認が活用できます。一方で、「排出事業者が委託先の信頼度をゼロベースで確認する場合」には遠隔では、やはり不十分です。
具体的には、新規の処分先へ委託を検討している排出事業者は、契約前に実地で施設等を確認することが望ましいと考えます。
オンライン会議システム等を活用したとしても、排出事業者が得られる情報に限りが有り、「本当にこの処理会社に委託して問題がないか?」という総合的な判断を下すには不十分です。
例えば「カメラに映った部分は問題なくても、都合の悪い部分は映さないのではないか?」「見た目では分からないが、周辺の臭気はどうなんだろう?」などと、新規契約先となると、排出事業者もそこは慎重になります。細かい部分を挙げればきりがないのですが、どうしても実地でないと確認できないことが多く、排出事業者は契約前の審査を遠隔で行うことはリスクがあると考えます。
上記の理由から、排出事業者が希望する場合には実地確認を受け入れる必要があります。
一方で、すでに契約済みで、滞りなく処理ができて互いの信頼関係が築けている場合は、遠隔での簡易的な確認が有効です。毎年の定期的な確認は遠隔にしておいて、数年に一回は実地を訪問するという排出事業者もいるかも知れませんね。
排出事業者の要望に応じて、遠隔での確認にも対応できる準備をしつつ、従来の実地確認もしっかりと受け入れる姿勢が必要となってきます。
地方条例は要確認
ここまでは、法律を元にした解釈通知についての解説でした。全国的な基準は前述の通りですが、地方条例については注意が必要です。
一部の地方条例には、「実地」と明記して、処分場の定期的な訪問を義務付けているものがあります。
「法律が遠隔OKになったのだから、今までの条例も法律に倣って遠隔OKになるのでは?」という質問も寄せられていますが、残念ながら法律の解釈通知が出たからと言って、条例の規制に変化はありません。
地方条例は、法律の規制に反しない範囲で、「上乗せ」や「横出し」をして、より厳しい規制をかけることができます。(図1)
図1:地方条例のイメージ
法律よりも厳しい規制をかけているので、元の法律解釈が変わったからと言って、条例も自動的に変わるということはありません。
もちろん、デジタル化の流れを受けて地方条例が見直される可能性はありますが、地方条例の改正が正式に行われるまでは、既存のルールが適用されます。
多くの場合、排出事業者が所属する自治体の条例によって実地確認義務が課されます。自社が所属する自治体だけでなく、排出事業者の所属する自治体の条例もチェックしながら、対応を決めていきましょう。
執筆者
安井 智哉
廃棄物処理会社へ出向し実務経験を積む。現場で得た知識や経験をもとに、お客様の課題に真摯に向き合い最適な提案をおこなうコンサルタントを目指す。
また、静脈産業・廃棄物処理業界の”現場”が抱える課題に着目し、ITシステム等の様々なツールを活用したサービスの開発に努める。